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高松高等裁判所 昭和24年(控)520号 判決

被告人

金英二

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人原田左武郞の控訴趣意第一点について。

しかし、本件は外国人の外国船舶内の犯罪に該当し、物価統制令の適用がないのは勿論、我国の裁判所に裁判権がないという所論は独自の見解であつて全く理由がない。

(弁護人原田左武郞の控訴趣意)

第一、被告人が昭和二十四年二月二十日午前九時十五分頃香川県仲多度郡広島村南方約四粁の海上で、その所有船佐野丸船内において、統制額を超えて大阪市内で販売する目的をもつて生ゴムFAQ四噸三十瓩を所持しておつたと言う本件公訴事実については、日本国の裁判所が裁判権を有しないから、本件は公訴棄却の判決をすべきものである。

その理由は、次の通りである。

(1)  被告人は、外国人である。

朝鮮は、もと我国の領土であつて、その住民は、日本の国籍を有するものとされておつたのであるが、終戦後は、連合軍の軍事占領によつて、日本の国権が及ばないことになつて了つた。これは終戦後における特殊領土形態であつてその結果、所謂第三国人と言う観念を生じ、朝鮮人が第三国人であるかどうか、疑問ができたので、中国人と区別するために第三国人ではないか、外国人としての登録を要することになつて、昭和二十二年八月在日本朝鮮人は、全部外国人としての登録をしたのである。

ところが、その後南鮮にも北鮮にも、独立国としての政治形態が完備し、いずれも、連合軍によつて承認された結果朝鮮に本籍を有する者は、日本に在住した者でも、日本人でないことになつたのである。

(2)  被告人は、朝鮮に本籍を有し、昭和二十二年八月三十日大阪市生野区において、外国人登録令による登録を了しておるから、明らかに外国人である。

(3)  生ゴムを積載しておつた佐野丸は、昭和二十三年十月宇和島市在住の佐野某から買取つたもので、その所有権は被告人に属し、その事実上の支配は、被告人が船長として、これを掌つてきたのであるから実質的に日本の船舶とは、言えない。

船舶がいずれの国に属するかを決定するにつき、船籍港を標準とするか、或は、それを事実上支配しておる人の国籍を標準とするかは、疑わしいところであらうが、本件においては、被告人が買取つた当時佐野丸を朝鮮へ登録換することが事実上不可能な結果、佐野丸の船籍は、日本から朝鮮に移つたが登録換不能のところから、単に、日本の船籍が形式的に存置しておるに止まると見るのが正当である。即ち、佐野丸が日本の船舶でないことは、決定的である。

(4)  佐野丸が臨検を受けたと言う香川県仲多度郡広島村南方海上約四粁の地点は、日本の領海であるから、本件は、日本の領土内における犯罪であるように考えられる。

然し、たとえ、日本の領海内においても、外国船舶内における犯罪には、別段の定のない限り、日本の刑罰法規の適用がないのであるから、

(5)  本件は、外国人が外国船舶内における犯罪に該当し、物価統制令の適用がないのは、勿論、我国の裁判所に裁判権がない。

仍つて、本件は、公訴棄却の判決をなすべきである。

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